IFルートの解説
【リゼロ】アニメ奪還編から分岐するIFルート スバルが仲間を殺す『ゼロカラツギハグイセカイセイカツ』解説
本文を開く第六章57話まで読んだ・見た人向け 本文をたたむ
奪還編1話で殺さなかったスバル
奪還編1話。スバルは、メィリィを殺しませんでした。「殺人は、癖になる」。あの言葉で、自分と彼女を赦した回です。
でも――殺した世界線が、あるんです。しかも公式です。作者の長月達平先生が、2019年のエイプリルフールに書いたIFストーリー。タイトルは『ゼロカラツギハグイセカイセイカツ』。今日はこの話を、本編と突き合わせながら解説します。
どこで分岐したのか(第六章48話)
まず、どこで分岐したのか。作者のあとがきに、こう書いてあります。「殺人が癖になって、自分の周りの人間の真意を確かめるために、『死者の書』を読む誘惑に勝てなかったスバルくん分岐です」
本編の第六章48話。記憶を失ったスバルは、仲間の本心を知る手段として「殺して、死者の書を読む」計画に一度傾きます。本編では、実行できずに死にました。ツギハグは、実行した方の世界です。
実行した世界のスバル
では、実行した世界のスバルはどうなったか。街道を歩いています。エミリア、ベアトリス、ラム、メィリィ、ユリウス。みんなでマヨネーズの話をしながら。
ところが、スバルが言葉に詰まった瞬間、全員が止まります。風は吹いている。水は沸いている。止まっているのは、エミリアたちだけ。そこにシャウラが飛び込んできて、止まっていた全員を吹き散らします。
用意していた昼食は、二人分。スバルと、シャウラの分だけ。エミリアたちは、幻影です。スバルの左目にだけ見えている。
このスバルは髪が真っ白で、左目が濁っています。本人いわく「頭をぶつけすぎた」。実在する同行者は、シャウラひとり。
目的=「ナツキ・スバル」の再構成
このスバルの目的は、はっきりしています。「ナツキ・スバル」を取り戻すこと。記憶を失った自分は偽物で、みんなが愛した本物のナツキ・スバルが、どこかにいる。
じゃあ、どうやって取り戻すか。ここがこの話の核です。
「評価とは、他人の物差しで測られて決まるものだ」
「全ての人間の物差しを確かめることができれば」「その人間を再構成することもできるはず」
つまり、ナツキ・スバルを知る人間を殺し、その人の死者の書を読む。他人の目に映ったナツキ・スバルの断片を集めて、ツギハギして、本物を組み立てる。タイトルの「ツギハグ」は、そのままの意味です。
そして組み上がった本物なら、運命をやり直して、殺した全員を取り戻してくれるはずだ。「頼むよ、『ナツキ・スバル』。お前が、英雄なら、助けてくれ」
本人の中では、これは取り返しのつく話なんです。ここが一番怖い。
最初の犠牲者と「殺人だけが、答えになる」
最初の犠牲者は、街道で偶然すれ違った青年です。レギン・スーウェン。オットーの弟。地竜や家畜の医者。スバルの顔を見て、「僕の診療所で休んでください」と声をかけてきた。
スバルは「ごめんな」と一言。次の瞬間、シャウラの白光でレギンの頭部が消えます。監視塔で死者の書を読んだ結果、「大した付き合いじゃなかったな」。名簿の名前に横線を引いて、「あと、二十三人か」。
ここで冒頭の「殺人は、癖になる」が、こう書き換えられます。
「――『殺人だけが、答えになる』」
本編でスバルが振り払った言葉が、この世界では結論になっている。
プリステラ水没
場面は水門都市プリステラ。3期の舞台です。
塔から一人だけ帰ってきたのが、アナスタシアの体のエキドナ。「ナツキ・スバルは乱心して、同行していたエミリアやユリウスたちを手にかけた」。王選の関係者が一堂に集まって、この報告を聞きます。エキドナは疲れ果てて、王選を降りると宣言。
その直後、大水門が開きます。プリステラは、すり鉢状の街です。水が入れば、逃げ場がない。制御塔は四つとも動かされて、避難所まで沈んだ。やったのは、もちろんスバルとシャウラです。
幻影のロズワールが横で言います。「これで、君を知る人間の多くが一挙に片付いた」。スバルの答えは「うるさい」。罪悪感がないわけじゃない。それでもやる。
でも本当の狙いは、街を沈めることじゃありませんでした。
本命はオットー
生き残ったオットーが、スバルに言います。「欲張らずに、ラインハルトさんを一直線に狙うべきだったんですよ」。一番の敵はラインハルトだ。最初の一撃で仕留めるべきだった。オットーはそう読んだ。
スバルの答え。
「――オットー、お前だよ」
「お前を確実に殺すために仕組んだ手口だ。他の死人は、まぁ、おまけだな」
街ひとつ沈めた理由が、オットー一人。なぜか。スバルは幻影の仲間たちに、同じ質問をします。
「俺を知ってる人間の中で、一番、厄介な奴は?」
エミリア「オットーくん」。ベアトリス「オットーかしら」。ラム「オットーでしょうね。癪だけど」。ロズワール、ペトラ、フレデリカも全員オットー。全会一致です。
だから水で沈めた。鼠一匹いなければ、オットーの加護は使えない。地面から離せば魔法も使えない。
「俺は、お前を過小評価しない。俺は、俺以外の誰も過小評価しない」
「お前はずっと、陣営の全員から最高評価だったぜ、オットー!」
オットーの最期の言葉は――
「――くたばれ、偽物」
これ、本編のオットー評そのものです。エミリア陣営の頭脳がオットーだというのは、原作読者の共通認識。それを「一番先に殺すべき相手」として突きつけたのが、この話です。
ラインハルトへの宣言
そこにラインハルトが来ます。スバルはラインハルトも殺すつもりです。でも「今日じゃない。明日の、明日の話だ」。
幻影のロム爺が、フェルトの隠れている場所を指差す。シャウラがそこへ白光を撃ち、ラインハルトはフェルトを守るために飛び退く。幻影のロズワールの献策です。「大事なものを手元に置けば、当然、弱点を晒すのと同じことになる」
「――必ず、お前も殺してやるからな、ラインハルト」
その後、焼かれた村で唯一生き残った少女アミューが、ラインハルトに証言します。「男の人は、誰かと、話してたような……」
ラインハルトは目を閉じる。「いずれ必ず、ラインハルトがこの手で斬らなくてはならない、友だった」
シャウラの答え
最後に、この話でいちばん刺さる部分。シャウラです。
スバルはシャウラにも問います。心当たりを全員殺したら、最後はお前の本を読む。それでもついてくるのか。
シャウラの答え。
「あーしは愛したいものを愛したいように愛したいだけ愛するッス」
「いくらでも使い潰して、あーしが無様に死ぬまで利用してくれていいッス」「その代わり、あーしを愛して、あーしが死んだら泣いてほしいッス」
本物だろうが偽物だろうが関係ない。お師様がお師様であること、それだけでいい。
このシャウラの姿勢、喪失編で見たままです。何回忘れられても、四百年、それでも待っていた人。
スバルは笑って、こう約束します。
「お前が、『ナツキ・スバル』じゃない俺が、最後に殺すのはお前にしてやる」
愛の告白への返事が「最後に殺す」。この世界線のスバルにできる、精一杯の誠実さです。
まとめ:違いは一歩踏み出したかどうか
まとめます。本編の48話と、ツギハグの48話。どちらのスバルも同じことを考えました。他人の本心が知りたい。
違いは、一歩踏み出したかどうか。それだけです。
踏み出さなかった本編のスバルは、56話でメィリィを赦し、雪解けを待つ。踏み出したスバルは、名簿と、白い髪と、幻影の仲間を抱えて歩き続ける。
このIFが書かれたのは2019年。第六章はまだ連載中でした。作者は本編の答えを出す前に、「答えを間違えた方のスバル」を先に書いておいたことになります。
奪還編1話でスバルが殺さなかった意味は、この話を読むといちばん重く見えます。
引用は全部、なろう版の原文からです。「リゼロEX ツギハグ」で検索すれば、無料で読めます。
原作:長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(小説家になろう/MF文庫J・KADOKAWA)。 本文中の原作の引用は、考察・批評を目的とした引用です。