奪還編の解説
【リゼロ奪還編8話】原作との違いと伏線を全部解説|シャウラ/英雄
第六章まで読んだ・見たので、本文を開く 本文をたたむ
最終話の範囲
奪還編8話、最終話。サブタイトルは、シャウラ、英雄。タイトルが2つ並んでいます。原作89話のタイトルがシャウラ。90話のタイトルが英雄。2話ぶんを、そのまま並べた形です。そして90話は、原作六章の最終話です。
扱うのは、原作六章の87話から90話まで。六章の外の話はしません。
ボルカニカが呼んだ「サテラ」
最初に一番大きいところからいきます。今回、ボルカニカがエミリアを、ある名前で呼びました。
前回、エミリアは氷の兵隊に押し上げられて、最上層に着きました。そこへ、ボルカニカが戻ってきます。一度は、エミリアの足を払っただけで、転ばせるにとどめます。同じ一振りで、氷の兵隊は七体とも頭を砕かれているのに、です。「なんで、私には優しくしたの……?」
そして、目の前まで顔を寄せて、これまでと違う言葉を話し始めます。「……汝は、何をしているのだ」。口上を繰り返すだけだった龍が、会話をしている。しかも中身は、転んだら危ない、という心配です。「万一があれば、叱責を受けるのは我であろう。……皆、汝には頭が上がらぬ故」
誰と話しているつもりなのか。続く台詞で、名前が並びます。「フリューゲルやレイドは何処へいった?別れ際に言葉もなくては、シャウラが寂しがるぞ。ファルセイルも、喧しく騒ごう」
フリューゲル、レイド、シャウラ。そして、ファルセイル。ファルセイル・ルグニカ。400年前のルグニカの王で、ボルカニカと盟約を結んだ人物です。ボルカニカの目には、400年前の仲間たちが見えている。そして、エミリアをこう呼びます。「何かあれば話せ。汝の憂いなら我が取り除こう、――サテラ」
サテラ。
嫉妬の魔女と同じ名前です。おかしいのは、その呼び方に親しみがこもっていることです。ボルカニカもレイドも、魔女を封じたがわなのに。
エミリアは、そのまま聞いてしまいます。「どうして、嫉妬の魔女に優しく話しかけるの?」
この一言で、ボルカニカの目の色が変わります。エミリアが頭を下げた直後、その位置の空間がねじれて爆ぜました。ここから先は、敵意です。
ただ、ボルカニカはこうも言っています。「サテラ、そうだ、サテラ。嫉妬の魔女と成り果てた汝を、我らが止めねば」
成り果てた。ボルカニカの中では、サテラと嫉妬の魔女は別の名前です。サテラと呼ぶときは親しみ。嫉妬の魔女と呼ばれた瞬間に、攻撃に変わる。
サテラが、嫉妬の魔女に成り果てた。
そして、悔やむ言葉も漏らします。「あの日、我が躊躇わなければよかった。あの日、我が躊躇わなければ、誰も――」
あの日が何の日なのか。何を躊躇ったのか。六章の最後まで、答えは出ません。
エミリアの返事はこうです。「――いいえ、違うわ。私はエリオール大森林の氷結の魔女、エミリア」「――名前だけでも、ちゃんと覚えてね!」
六つの手形
ボルカニカが戻る直前、エミリアが見ていたものがあります。最上層の柱の根本に置かれた、黒いモノリス。そこに押された、六つの手形です。
原作では、六つとも別々の人の手だと書かれています。端の二つだけが小さく、女性の手に見える、とも書かれています。そして、そのうちの一つが、自分の手に見える。「この手形って、私の……?」
エミリアはこのあと、実際に手を重ねます。結果は、ぴたりと一致。ただし原作が書いているのは、エミリアと手がそっくりな人の手形、までです。エミリア本人の手形だとは、書いていません。
エミリアは、残りの手形の持ち主も推測します。フリューゲル、レイド、ファルセイル。小さいもう一つは、シャウラではないか。男の手形が一つ、誰のものか分からないまま残ります。
ボルカニカが呼んだ名前は、フリューゲル、レイド、シャウラ、ファルセイル、サテラ。手形は、六つ。この六人については、別の動画でじっくりやります。
一層の試験「志を問わん」
戦いに戻ります。ボルカニカの息吹きに対して、エミリアが切ったのが、新しい極大魔法。アブソリュート・ゼロ。名付けたのはスバルで、一度も成功していなかった魔法です。
仕組みはこうです。体の中のマナを、いったん外に溜める。溜めたものを、一度に使う。出口の大きさに縛られない使い方です。魔法使いと精霊術師、両方をやってきたエミリアにしかできない。息吹きとぶつかって、音もなく両方が消えます。
そのまま懐へ飛び込んだエミリアが、喉の白い鱗に気づきます。7話ではカットされた、あの白い鱗です。ここで入ったパックの回想は、原作では84話の場面。7話でカットされた分を、8話に移して描いた形です。青い鱗の中に一枚だけ白い鱗を見つけて、エミリアがパックを思い出します。「ダメだよ~、リア。そんなにこそばゆいことされたら、集中が乱れちゃうでしょ?」(六章84話)
そこで氷の兵隊に触れさせると、ボルカニカが初めて悶えました。そして88話では、近くで見たエミリアが、その正体に気づきます。「古い、傷……」(六章88話)。鱗ではなく、大きな白い傷跡。誰が、いつ付けた傷なのか。これも六章では明かされません。
エミリアが一瞬ためらった隙に、ボルカニカは空へ。追いかけて跳んだエミリアを、尾が狙います。そこへ、下から風。ラムです。ライとの戦いのあと、傷だらけのまま、パトラッシュと駆けつけていました。
このとき、ボルカニカは妙なものに目を向けます。ラムではなく、その隣。「――パトラッシュ?」。地竜の名前を、龍が呼んだ。なぜ知っているのかは、一行も説明されません。
その隙に、エミリアが氷の滑り台で加速して、喉の傷を蹴り抜きます。モノリスへ走り、手を重ねる。すると、問いかけが始まります。「――我、ボルカニカ。古の盟約により、頂へ至る者の志を問わん」
何度も聞いた口上です。ただ今回は、その先がありました。「――問わん。汝の、志は!」
エミリアの答え。「――みんな、仲良くして!!」(六章88話)
これで試験は突破です。塔を覆っていた雲が、一気に晴れます。
なぜこの答えで通ったのか。88話が書くのは、雲が晴れたところまで。理由には触れません。ただ、90話に手がかりがあります。
エミリアがモノリスに到達し、試験を乗り越えたと判断すると、またしても元の曖昧な状態に逆戻りしてしまった。(六章90話)
判断の決め手として書かれているのは、モノリスへの到達です。答えの中身が審査されたとは、どこにも書かれていません。志を示すこと自体が、条件の一つでした。中身が問われたのかどうかは、書かれていません。
砂海の総力戦
同じころ、塔の外。大サソリの一撃で、メィリィは瀕死でした。スバルは、コル・レオニスでメィリィの傷を引き受けます。ただ、ラムの負担も背負ったまま。このままだと、スバルが先に倒れる。
大サソリの光を防いでいるのは、イーエムエム。スバルとベアトリスの時間を止めて、外からの攻撃を受け付けない、絶対防御です。ただし、使っている間は動けない。動けない弱点をなくしたのが、イーエムティー。マナを帯びた攻撃なら、何でも打ち消せます。どちらも、スバルとベアトリスが編み出した、オリジナル魔法です。
追い詰められたスバルたちの前に、虹色の光が降りてきます。ユリウスです。レイドとの戦いを終えて、一番危ない場所を選んで来ました。「完敗だ。気持ちよく勝ち逃げされたよ」。準精霊だった6体は、ここで精霊になっています。
そして試験の突破と同時に、大サソリがひっくり返ります。ルールが書き換わった、ハズでした。それでも、大サソリはスバルに尾を向けてくる。とどめを引き受けようとしたユリウスを、スバルが止めます。「俺が、あいつのお師様だからじゃない。俺が、あいつに絆されたから、そうするんだ」
ここからが、最後の総力戦です。ユリウスが正面を受け持ち、スバルが鞭で尾を捕まえる。ベアトリスの魔法で、スバルの体を重くして踏ん張ります。重くするのが、エル・ヴィータ。反対に、軽くするのがムラクです。
それでも、力比べでは勝てるはずがない。そこに加わったのが、魔獣たちでした。目を覚ましたメィリィが、砂海の魔獣を丸ごと味方に付けます。「みんな、いらっしゃあい。見てるだけなんて、もったいないわあ」。原作はこの姿を、魔獣の母の再臨、と書きます。
では、瀕死だったメィリィがなぜ立てたのか。コル・レオニスには、引き受けた負担を、仲間に肩代わりしてもらう使い方があります。条件は、相手がスバルと一緒にいたいと、望んでいること。スバルが頼ったのは、パトラッシュとは別の、もう1頭の地竜。ヨーゼフです。メィリィの負担の大部分を、スバル経由でヨーゼフが引き受けていました。ヨーゼフも、スバルを支えたいと思っていた。
魔獣と地竜まで加わった綱引きで、大サソリの足が浮きます。そこをユリウスが、尾の根元から断ち切りました。
尾と両腕を失い、押さえ込まれた大サソリの前に、スバルが立ちます。メィリィが問いかけます。「あなたはだあれ?赤くて怖いサソリさん?」
複眼の赤が、緑に戻っていきます。甲殻の赤も、黒に。
シャウラの最期
ここで、シャウラの本音が語られます。塔のルールは、煩わしかった。でも、それがなければ、忘れっぽい自分は全部忘れていた。「あーしを、愛してほしいッス。――お師様」
ここで、大サソリの甲殻が赤く染まっていきます。原作では、この赤は攻撃色と呼ばれていました。スバルには、違って見えています。赤は、抑えられない愛の色。
そして、最後の会話。スバルは、愛してるとは言ってやらない、と返します。本当は、泣いてほしかった。消えたくないと泣いてくれたら、何度でも助けにいけたから。でもシャウラは、泣きませんでした。「四百年なんて、明日の明日みたいなもんだったッス」「――待ってる時間も、愛してたッスもん」
甲殻が、ボロボロと崩れていきます。ベアトリスはこう言います。「……役目を、果たし終えたかしら」
これは死ではなく、役目の終わり。90話では、シャウラの正体もこう整理されます。塔のルールそのものと結び付いた、試験を進めるための舞台装置。レイドや、三層のモノリスと同じがわだった、と。塔の役目が終われば、シャウラも退場しなければならない。
最後に残った言葉がこれです。「いつかまた、あーしと出会ってほしいッス」「今度は、お師様があーしを待つ番ッスよ?」「今度は、忘れないでくださいッス」
塵の中から、手のひらほどの赤いサソリが這い出してきます。ただ、メィリィの加護が効く、ただの魔獣でした。「魔獣ちゃんよお、お兄さん。――あの、裸のお姉さんじゃないわあ」
そして、シャウラがずっと呼び続けたお師様。それがフリューゲルなのか、スバルなのか。六章は、最後まで決めません。エミリアだけは、ハッキリ言い切っています。「――お師様の、フリューゲルが悪い人だと思う」
明日の明日
ここで、原作ならではの話を一つ。89話の末尾に、作者のあとがきがあります。「今日のサブタイは、明日の明日と迷いました。でも、愛の色をしていたと書いたから、自然とこっちになりました」
89話は、這い出した小さなサソリの甲殻が、四百年でも色褪せない愛の色をしていた、という一文で終わります。その一文を書いたから、タイトルはシャウラになった。選ばれなかった候補が、明日の明日。
シャウラの、四百年なんて明日の明日。この言葉が、90話で戻ってきます。黒い影に呑まれて、死を覚悟した場面です。
「――明日の明日のために、何度だって戦ってやるよ」(六章90話)
アニメでは、この台詞は入りませんでした。シャウラが待ち続けた時間の言葉を、スバルが戦う理由にして受け継いだ。
使われなかったサブタイトルが、90話で使われています。
戻ったもの、戻らないもの
塔に戻ります。ラムがライを討ったことで、エミリアの名前は全員に戻りました。ユリウスも、ベアトリスも、エミリアを思い出しています。6話で目を覚ましたアナスタシアとも、ここで合流します。
ただ、戻らなかったものがあります。ユリウスの名前。そして、レムです。「……ごめんなさい、スバル。まだ、私はレムのことを思い出せてない」
ユリウスは、自分の名前が戻らない理由に、心当たりがあると言います。彼の名前を喰ったのは、ライではなくロイ・アルファルド。そのロイは、生け捕りにしてありました。全身を黒い結晶で固めた、封印の形です。
この封印について、ユリウスがこう言います。「世界で最も有名な封印も、これと同じ術式を採用している。規模は桁違いだとしてもね」
世界で一番有名な封印。エミリアが答えます。「――嫉妬の魔女、よね」
塔からさらに東に封じられている、嫉妬の魔女。400年の眠りと、同じ封じ方です。
スバルは、ロイを殺せば全部戻るのではと詰め寄ります。ユリウスとアナスタシアは、確証がないと止めました。ロイは王都へ移送すると決まります。
なぜレムの記憶が戻らないのか。この話は、4期のまとめでやります。
最後の障害と草原
そのころ、緑部屋。スバルの目の前に、光と一緒に、ルイ・アルネブが現れます。肉体を持たないはずの、暴食の末妹です。意識はありません。
直後、塔を黒い影が襲います。五つの障害の、最後の一つ。77話でスバルは、影が来るかどうかは五分五分と読んでいました。ルイが自分の中から消えたから、です。
影は来ました。スバルはレムを抱え、ルイの腕も掴んで、呑み込まれます。闇の中で、あの言葉が繰り返されます。愛してる、愛してる。
そこへ、上から青い光。「――我、ボルカニカ。古の盟約により、頂へ至る者の志を問わん」。ボルカニカの口上と一緒に、光が闇を直撃します。意図してなのか、ただの繰り言なのか。それも書かれていません。
気がつくと、スバルは草原にいました。塔は、どこにも見えない。傷はそのまま。死に戻りはしていません。隣には、子どものように声を上げるルイ。「あーぅ?」
レムの目覚め「英雄」
そして、レム。立ち上がろうとしたスバルの袖を、誰かが引きます。レムが、目を開けていました。最終話のラスト、このレムの作画は本当にきれいでした。
六章の旅は、レムを取り戻すための旅でした。スバルは、何度も名前を呼びます。そして、レムの最初の言葉。
「――あなたは、だれ、ですか?」
目は覚めた。でも、記憶は戻っていない。スバルは、この可能性を覚悟していました。このとき思い出すのが、レムのこの言葉です。「かっこいいところを、見せてください。スバルくん」
そしてスバルは、もう一度名乗ります。「――俺の名前はナツキ・スバル」「俺は、お前の英雄だ。――レム、会いたかった」
1期で、そして2話の記憶の回廊で、レムはスバルを英雄と呼んだ。
最終話では、覚えていないレムに、スバルが英雄を名乗った。
原作90話は、この一文で六章を閉じます。
――もう一度、誓いをここに。ゼロから、彼女との物語を始めるために。(六章90話)
ゼロから。今度はレムと、ゼロから始める。
アニメでカットされた原作
ここからは、アニメでカットされた原作の話です。
まずは、90話で一層に上がった仲間たちと、ボルカニカの対面。ボケているように見える龍を、ベアトリスとエキドナはこう診ます。「これは精神の摩耗ではない。魂が虚ろなんだ」(六章90話)
中身が入っていない。決まった言葉と、決まった反応しかできない。エミリアがあれだけ苦戦した相手で、それです。
そこで、ボルカニカの血をもらえないか、という話になります。龍の血は、エミリアが王選に出た目的そのものです。エリオール大森林の氷を溶かすために、王城の龍の血がいる。それが、目の前の龍から手に入るかもしれない。
ここで、エミリアは迷います。別の方法で森が救えるなら、自分は王選から降りるのか、と。
答えを出したのは、ベアトリスでした。「城の龍の血は、死した龍の最後に脈打った心臓からこぼれた血、かしら」
根拠は、禁書庫にあった強欲の魔女の記述です。最後の心臓の鼓動。つまり、王城の血を残した龍は、死んでいる。生きているボルカニカの血ではありません。違うと聞いて、エミリアは、少しほっとしている自分にも気づきます。
では、どの龍の血なのか。その記述にも、書かれていません。
ボルカニカの血では、森の氷は溶かせない。エミリアの目的は、近道できないまま残りました。代わりに、薄めて使えば、プリステラで姿を変えられた人たちを、戻せるかもしれない。こちらは、持ち帰れる希望です。
そしてエミリアは、塔を閉ざさず、みんなで使い方を探すと決めます。砂丘も、もう誰も拒まないはず、とエミリアは感じています。
血の話をしていた、そのとき。ボルカニカが、ゆっくりと塔の外に顔を向けます。見ているのは、東。原作は、ここで文章を切ります。
大瀑布が――否、大瀑布と、特別な地が存在する。
東にあるものは、封印の話でも出てきました。嫉妬の魔女が封じられている場所も、塔の東です。本文は、この二つを繋げてはいません。
もう一つは、緑部屋。ルイが現れたのと同時に、部屋の治癒が止まっていました。「――部屋の治癒の効果が切れてる。精霊が、いなくなったのよ」
傷を癒やしてくれていた、緑部屋の精霊が消えた。ルイの出現と関係があるのか。ラムの推測止まりです。
六章に残った謎
最後に、六章が答えを出さずに終わった謎を、並べます。
- ボルカニカにとってのサテラと、あの日のためらい
- 六つの手形と、エミリアにそっくりな手
- 喉の古い傷
- パトラッシュの名前を呼んだ理由
- 王城の龍の血を残した、死んだ龍
- シャウラのお師様は誰だったのか
- そして、なぜレムの記憶は戻らないのか
どれも、六章の中では閉じていません。
奪還編、ここまでありがとうございました。この動画が役に立ったら、チャンネル登録と高評価をもらえると嬉しいです。リゼロ伏線書庫でした。
原作:長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(小説家になろう/MF文庫J・KADOKAWA)。 本文中の原作の引用は、考察・批評を目的とした引用です。