奪還編の解説
【リゼロ奪還編7話】原作との違いと伏線を全部解説|ラム
第六章86話まで読んだ・見たので、本文を開く 本文をたたむ
今回の範囲
奪還編7話、ラム。塔のなかでは、三つの戦いが同時に進みます。螺旋階段のラム、砂海のスバル、最上層のエミリア。この三つを1本に繋いでいるものがあります。スバルの権能、コル・レオニスです。
扱うのは、原作六章の79話から86話まで。その先の展開には触れません。
ラムを支えていた権能
まず、今回のラムの強さの正体からいきます。ツノナシのラムを支えているのは、スバルです。
コル・レオニスは、2話で手に入った権能です。効果は二つ。位置と状態がわかること。そして、仲間の傷や疲れを自分に引き取ること。
ラムが強いのは、痛みが全部スバルに流れているからです。
原作では、ラムが本気を出した瞬間、スバルが血を吐きます。「――瞬間、コル・レオニスの反動がナツキ・スバルへ牙を剥く」
血を吐きながら、スバルは塔から離れません。離れると、権能が届かなくなるからです。塔から離れた方が戦いやすい、とメィリィは言います。ラムの負担を引き受け続けるためです。
砂海で起きていたこと
その間スバルたちは、砂海で大サソリと戦っています。相手は、シャウラが変じた大サソリです。
メィリィの魔獣が、炎で大サソリを焼きにかかります。直後、大サソリの光がメィリィの腹を貫きます。殺し屋だった子が、初めて誰かを守るために戦っている。メィリィにとって3度目の、自分の意思でした。
スバルは、メィリィの加護の反動も引き取っています。ラムの分とメィリィの分を、同時に背負っている状態です。
ラムの方も、それをわかっています。「死ぬ気で耐えなさい、バルス。――レムが泣くわよ」
ラムの「枷」とは何か
この一言のあと、ラムは枷を外します。その「枷」が、今回いちばん効く設定です。
ラムは自分の意識に枷をかけて、力を封じています。角を失った鬼の体は、本人の力に押し潰されるからです。だから普段は、全部かけたままで働いています。
聖域でガーフィールと殴り合ったラムは、まだ2割です。枷を二つ外した状態が、あのときの性能でした。
今回ラムは、10年ぶりに三つ目を外します。その反動はまるごと砂海のスバルへ飛びます。
ライはなぜ消えたのか
ここからはライのがわです。ラムはライを一方的に殴り倒します。空中に仕掛けた見えない刃も、千里眼で見抜かれます。相手の視界に重なれば、罠の場所までわかるからです。
追い詰められたライが、そこで切り札を切ります。ラムの靴の下から、ライの体が消えます。現れたのは、僧衣を着た禿頭の老人でした。この老人が、短い距離を跳ぶ力の持ち主です。
暴食の権能には、蝕と呼ばれる使い方があります。月蝕と日蝕の二つです。月蝕は、喰った技を自分の体で再現するものです。ライがいつも使っているのは、こちらです。日蝕は相手の存在ごと被って使うものです。
日蝕は、相手の精神に引っ張られる危険があります。
だからライもロイも、日蝕はめったに使いません。肉体を持たないルイだけが、気軽に使える手でした。
『暴食』が着ていた三人
ライが被った顔は、全部で3人います。
拳王、ネイジ・ロックハート。帝国の剣奴孤島を、徒手空拳だけで生き抜いた男です。
肉食獣、ベリ・ハイネルガ。グステコの連続殺人鬼で、風の刃が通りませんでした。
跳躍者、ドルケル。人ならぬモノの声を聞いて、人生を捨てた商人です。
この3人を切り替えて、ライはラムを出し抜きます。そして、その代償がすぐに出ます。
次にラムが見たライは、誰でもない何かでした。老人の部位、巨漢の部位、武闘家の部位。右手と左手の長さが違う体になっています。自分が失われていることに、本人は気づいていません。
そして、その顔の額に白い角が生えます。ラムの目の前で、ライはレムの姿になります。「泣いてください、姉様」
声も、顔も、姉が待っていた妹のものです。ラムが一番動揺する形を、ライは選んでいます。
ライを壊したのは、ラムが殺さなかったことでした。記憶を戻す方法を探るために、生かしておいたのです。
パトラッシュが殺されない理由
その隙に、ライはレムのところへ跳びます。レムを背に乗せて逃げていたのが、パトラッシュです。
ライは、パトラッシュを殺しません。暴食の権能は、人間以外を喰えないからです。地竜は、ライにとって絵に描いた餅なのです。
拳王の拳で撃たれても、パトラッシュは守り切ります。倒れ込みながら、落ちるレムを尻尾で受け止めました。
角が折れた夜
ここで、ラムの回想が入ります。鬼族の里が焼かれた夜の話です。
襲ってきたのは、全身をローブで包んだ黒い影でした。得物は、十字架の形をした剣。魔女教です。鬼族の里は、魔女教に焼かれました。
そしてラムの角には、生まれたときから声がありました。もっと殺せ、もっと壊せる、という声です。角に自分が支配されているようだ、とラムは感じています。
妹を庇った瞬間、黒い影の一閃で角が飛びます。回る角を見ながら、ラムはこう思います。
「――ああ、やっと折れてくれた」
痛みと一緒に、あの声が消えたからです。角を失った日を、ラムは救いとして覚えています。
杖の中身と『共感覚』
その角は、今もラムの手元にあります。十年使ってきた杖の芯が、折れた角そのものです。
角は、鬼がマナを集めるための器官です。だから触媒として、これ以上に馴染むものはありません。この杖を作らせたのは、ロズワールです。わざわざ、飛んだ角を回収して特注しています。
そして追い詰められた末に、その杖が砕けます。中から、長く見なかった白い角が転がり出ました。ラムはそれを、眠っているレムの手に握らせます。そして、レムの額で角が光ります。
姉妹をつないでいるのが、共感覚です。喜びも怒りも、痛みも分かち合える繋がりです。「残念だけど、ラムの妹は奥で寝ているわ」
折れた角の再活性と、その負担の分け合い。これでラムは、鬼としての力を取り戻します。
そしてラムは、このやり方の出どころを言います。バルスの作戦がヒント、と。負担を分け合う発想そのものが、コル・レオニスです。今回のラムは、二重にスバルに支えられています。
ラムの反撃と『共感覚』の正体
ここからラムの反撃です。ラムは枷を、さらに二つ外します。本人いわく、全盛期の五割。当時より成長した分、今のほうが強い、と言います。
そして、負担の行き先が途中で変わります。スバルから引き取るのをやめて、レムへ流したのです。
ここでラムが、共感覚の正体に触れます。ベアトリスの禁書庫で読んだ本に、仮説があった。共感覚とは、二人のオドが繋がって働いているもの。オドは、その人をその人にしている力の源です。生まれながらに誰かと繋がっているなんて素敵な話だ、と。
ついでに、スバルの権能の正体も推測します。他人のオドと自分のオドを、強制的に繋ぐもの。送ろうと思えば送れるけど、スバルは馬鹿だからやらない。引き取る方にしか使わない、という評です。
もうひとつ、重い事実がここで出ます。繋がっているのに、この一年、何も伝わってこなかった。怖い夢を見ていれば、その恐怖は伝わったはずです。つまり眠り続けるレムは、夢も見ていない。
ライの最期
力を取り戻したラムに、ライは何も通じません。顔を掴まれて、風の刃で顔を削られます。たまらず逃げますが、右目を千里眼で共有されている。逃げ道には先回りで、見えざる刃が置かれていました。ライが螺旋階段で一度見せただけの技を、真似したのです。
そして、捨てた玉がここで効いてきます。拳王の力さえ残っていれば、と本人が後悔します。
逃げ切れないと悟ったライは、腕を刃に叩きつけます。吹き飛んだ両手首から出る血で、壁に文字を書く。「受け取ってくれ、僕たちの想い」
何と書いたのかは、原作に一行も書かれていません。見る価値もない嫌がらせだと、ラムは切り捨てます。そのうえで、目を閉じて最後まで見届けました。
弟妹のために
実はその直前、ラムは一度だけ情けをかけています。弟妹のために、意地を見せたらどう、と。「おれ、たちの……ぼく、たちの……妹、に……」
涙声で言いかけて、ラムが目を伏せた瞬間でした。ライは姿を消し、こう言い残します。「姉様は、優しすぎます」
ラムの結論は、弟妹を餌にして謀られた、です。ただし原作は、本心だった可能性を潰していません。
そしてラムが口にするのが、応報の摂理です。拠り所にしたものに、滅ぼされる。
二つの「愛してる」
戦いのあと、ラムは眠るレムの頬に手を添えます。角が折れたあの夜は、何のためにあったのか。今日ここで、ラムがレムの姉様だとわかるためにあった。「愛してるわ、レム」
ライが最期に言いかけたのも、同じ言葉でした。同じ音でも、同じ響きにはならない。愛を知らぬものと、愛に生きるものとでは。
ここで、さっきの血文字に戻ります。中身は、原作に一行も書かれていません。そのうえで、私は愛してるだと思っています。
逃げながら、同じ言葉を三回叫んでいること。首が飛ぶ瞬間も、愛してると言いかけていること。そして今の、二つの愛してるを並べる締め方。
ただし作者は、そこをはっきり書きませんでした。伏せたということは、後で使う可能性があります。
神龍が同じ言葉を繰り返す理由
ここからは、最上層のエミリアです。一層で待っていたのは、神龍ボルカニカでした。ボルカニカは、同じ口上しか返しません。
エミリアは前足の鱗に触れて、気づきます。鱗が、氷のように冷たかったからです。「もしかして、お爺さんすぎて試験のこと、忘れちゃってる?」
肉体ではなく、精神の方が死んでいた。それでも居座り続けているのは、約束のためです。
一層の試験は、こういう条件で始まります。挑戦者は一名で、試験の中身は不明のまま。出題者が、出題を忘れている状態です。
氷の兵隊さん
ここでエミリアが出すのが、氷の兵隊さんです。7体まで作れて、砕かれても作り直せます。この兵隊、姿は全員スバルです。
氷を形にするには、イメージを固めるのが要ります。エミリアが一番描けるのが、スバルでした。絵を描いた日々が、そのまま武器になりました。
柱に上半身だけを生やす、氷兵の道も出てきます。氷の兵隊さんに押し上げられて着いた先が、最上層です。
最上層の、六つの手形
六本の柱より上、前人未到の場所です。中央の柱の根元に、黒いモノリスがありました。そこに押されていたのが、六つの手形です。それぞれ異なる、男女の手形が六つ。原作がここで書いているのは、そこまでです。
誰も辿り着いていないはずの場所に、六人ぶんの跡。それが、今回いちばん大きい持ち帰りです。
アニメと原作の違い
最後に、アニメと原作の違いです。
いちばん大きいのが、ライが玉を捨てる場面。原作にあるのは、喰らったモノを放り捨てたという一行だけ。捨てる場面そのものは、書かれていません。
色の違う玉は、喰った相手ごとの名前と記憶です。ユリウスやレムから奪ったものと、同じもの。それを自分から捨てたという事実が、絵で残りました。
逆に、原作から落ちた場面もあります。
ひとつが、龍の喉の白い鱗。原作ではエミリアがそこに触れて、龍が悶えます。その勢いで振り落とされた先が、最上層でした。
もうひとつが、86話冒頭のラムの独白です。ロズワールの最終目的は、ルグニカを守る龍を殺すこと。ラムは十年近く前に、本人からそう聞かされています。そしてラムは、ひとつの結論に辿り着きます。レムは、失われた角の代わりに引き取られた。二人で一人の鬼として、龍を殺すために手元に置かれた、と。
アニメでは、ロズワールが杖を渡す回想に差し替わっています。その杖を渡す場面は、逆に原作にありません。
砂海の戦いも、大きく縮んでいます。原作の大サソリ戦は、79話から82話まで続きます。ベアトリスが軽くした大サソリを、スバルが鞭で振り回す。大サソリが自分の尻尾を切って、その光で塔へ戻る。黒い甲殻が血のような赤に変わる、攻撃色という変化もある。アニメでは、その全部が一度の攻防になりました。
そしてもうひとつ、杖の砕け方が変わっています。原作では、ラムが震える手で自分の杖を抜きます。十年使ってきたそれを見つめてから、壁に叩きつける。アニメでは、レムの姿のライに蹴られて折れました。
自分で選んで壊したのか、壊されたのか。ラムがそこで何を捨てたのかが、変わってきます。
あと、ラムが指を三本立てる場面も落ちています。三回、先に殴らせてあげる、と宣言する場面です。
まとめ
今回のまとめです。
ラムの強さは、痛みを誰かが肩代わりしている間だけ。ライが壊れたのは、ラムが殺さずに追い詰めたから。血文字の中身と、六つの手形は未回収のままです。
原作:長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(小説家になろう/MF文庫J・KADOKAWA)。 本文中の原作の引用は、考察・批評を目的とした引用です。