奪還編の解説
【リゼロ奪還編5話】原作との違いと伏線を全部解説|ナツキ・スバル
第六章76話まで読んだ・見たので、本文を開く 本文をたたむ
導入
今回、奪還編1話で張られた伏線がひとつ、きれいに回収されました。ラムの「雪解け」です。
それからもうひとつ。喪失編に置き去りにされていた、三つの謎。その読み筋を変える一言が、出ています。順番に解説します。
『菜月・昴』の書
まず、原作73話。スバルは、菜月・昴の、死者の書を開きます。
タイゲタは、死者の人生を記録する書庫です。そこに、生きているスバルの本がある。それ自体が、矛盾です。しかも、このタイトルは漢字で書かれています。この世界の誰にも読めない文字で、この世界では生まれようのない名前です。
膨大な書庫のなかから、その一冊にたどり着いた。スバルは、こう確信します。「誰かの、既定路線」(六章73話)
誰かの思惑で、この本はここに置かれていた。この「誰か」の正体は、まだ明かされません。新しい伏線です。
一冊目の中身は、異世界に来た初日の死。腹を裂かれて、死ぬ。駆けつけた銀髪の少女まで、巻き添えにして。アニメ1期1話、あの盗品蔵です。
原作ではここで、スバルがある名前を呟きます。エミリアではなく、「サテラ」。今のスバルは、偽名の方しか知りません。
一冊読み終えるたびに、次の一冊が見つかる。二冊目、三冊目。死ぬたびに一冊。順番どおりで、途中を飛ばすことも許されません。
スバルはこの地獄に、自分から潜っていきます。目的は、あいつだけが持つはずの「何か」。特別な力があるはずだと信じて、探し続けます。
そして、見つかりません。ナツキ・スバルは、超人ではなかった。自分と同じ、弱くてちっぽけな男が、ただ諦めきれずに、死に続けていただけでした。
73話には、さらっと重大な一節があります。「時間を遡ってるのか、世界そのものを作り直してるのか」(六章73話)
死に戻りの正体を、自問する場面です。「最も高い可能性は後者」と考えかけて、そこで思考を、打ち切ります。答えは出ていません。ここは掘ると長いので、近いうちに、考察として一本にまとめます。
二人のスバルと雪解け
九冊目に手を伸ばしたとき、声が返ってきます。「ああ、わかるよ」「だって、お前は俺なんだから、な」
白い世界。記憶を持ったままのナツキ・スバルが、そこで待っていました。「それは、お前が俺に追いついた証拠だよ」
スバルは、一年分の記憶を全部見てきた。ふたりの間には、もう情報の差がありません。それでもスバルは、食い下がります。お前をお前にした「何か」が、あったはずだと。返ってきた答えが、これです。
「みんなが、好きなんだよ」
特別な力なんて、なかった。ただ、みんなが好きだから、やめられなかった。それだけでした。
ここからふたりは、記憶の統合に進みます。その前に、言い残していくことがあります。ひとつ。メィリィを頼む。ふたつ。でかいサソリの正体は、シャウラ。あいつがやりたくてやってるわけじゃない。助けてやってくれ。
そして、この一言です。「ラムが言ってたな。雪解けの季節になったら、見えなくなったものがちゃんと見えて、顔を出すはずだからって」
奪還編1話、ラムのセリフを覚えているでしょうか。「それは冷たい雪に埋もれた花のように、雪解けの季節が訪れれば姿を見せる。きっと、ただそれだけの話なのよ」
記憶は消えたのではなく、埋もれているだけ。季節が来れば、ちゃんと顔を出す。1話で張られたこの言葉が、記憶の統合で成就しました。アニメで5話ぶん、原作なら20話ちかくをまたいだ回収です。
ちなみに、もうひとつ。ふたりが記憶の回廊の、支配者を考える場面です。口を揃えて挙げた名前が、こちらです。「賢者、フリューゲル」
あくまでふたりの推測で、本文に答えはありません。フリューゲルの考察は、以前一本出しています。概要欄に置いておきます。
統合の締めに、原作だけの一言があります。「俺の夏休み、終わっちゃった、な」
記憶を失ってからの日々は、短くても、もうひとりのスバルが確かに生きた、物語でした。原作はこの一言で締めて、ふたりはひとつに戻ります。
消えたのはルイだった
そして74話のラスト、この回最大の反転が来ます。統合を終えたスバルが、人影に問いかけます。
「どうだ。お前が見たがってたものは見られたかよ。ルイアルネブ」(六章74話)
記憶を失ったスバルのなかには、ルイが、魔女因子として入り込んでいました。喪失編の後半から見てきた、あのスバルは、ずっとルイを内側に抱えたまま、戦っていました。
原作75話は、まるまるルイの生い立ち回です。ルイは、暴食三兄妹の、末の妹。ただし、兄たちとは決定的に違います。生まれたときから、記憶の回廊にいる。そして、自分の肉体を持ちません。兄たちが食べた他人の人生を、横からつまみ食いして育ちました。歩いた記憶はあるのに、歩いた経験は一度もない。
そのルイの願いが、繰り返されるこの一文です。「幸せに、なりたい」(六章75話)
ルイにとって最高の人生とは、「思い通りになる」人生。だから、死んでもやり直せる死に戻りが、探し続けた答えに見えました。
ルイは魔女因子をふたつに割って、自分を複製。片方が、スバルのなかに入り込みます。内側で死に戻りを体感して、奪い取るために。結果は、ご覧のとおりです。「人間の心は、自分が死ぬことになんか耐えられないのぉッ!!」
ルイは死を体感して、壊れました。願いは「幸せになりたい」から、「死にたくない」へ。二十回以上の死を繰り返して、立ち上がり続けたスバルの方が、どうかしている。ルイの絶叫は、その答え合わせでもあります。
それから75話のラストに、原作だけの仕掛けがあります。記憶を奪われる直前、スバルが最後に言った言葉。原作では、黒く塗り潰されています。その答えを、スバル本人が明かします。
「だから、俺はお前が俺を喰おうとしたとき、言ったんだよ」「絶対、後悔するってな」(六章75話)
伏せ字は、文字だからできる演出です。原作を読んだ人だけが拾える、答え合わせでした。
そしてスバルは、泣きじゃくるルイに宣告します。「俺は、お前を救わない」
スバルが自分という地獄から抜け出せたのは、手を握ってくれる、誰かがいたからでした。ルイには、それがいません。それを誰より分かった上で、スバルは、手を差し伸べないことを選びます。「嫌なことも辛いことも、お前自身で抱えろ。記憶から、逃げるな」
大罪司教の罪への、スバルの結論です。
三つの謎
76話では、もうひとりのルイが現れます。記憶の回廊に残っていた、複製の片割れです。スバルに怯えて、拒絶するルイ。そのルイが、計画を確認するセリフがあります。「因子になってお兄さんのなかに入り込んで、悪さを働く計画だったでしょ?」(六章76話)
因子として入り込み、悪さを働く。この一言で、喪失編に置き去りにされていた、三つの謎の読み方が変わります。
ひとつめ。腕と壁に刻まれた、ナツキスバル参上。ふたつめ。隠したはずが消えていた、メィリィの亡骸。三つめ。メィリィに課していた、謎のルールと脱落。どれも、もうひとりの自分の仕業に見えて、宙づりのままでした。
スバルの内側で、悪さを働いていた存在がいた。この三つの犯人は、なかに入っていた方のルイ。ほぼ確定と、見ています。記憶を喰った本人なら、日本語の文字も書ける。
そして、拒絶し合ったふたりのルイは、争いになります。「始まって、終わる。勝者のいない、争いが」(六章76話)
どちらが残ったのか、両方消えたのか。76話は書いていません。覚えておいてください。
反撃の狼煙
終盤、戦うエミリアのもとにスバルが来ます。原作の76話ラストは、この場面を、名前を奪われた「誰か」の視点で書いています。駆けつけたその人に、彼女は言います。「私のこと、わからないかもしれないけど、あっちが敵!」(六章76話)
名前を奪われて、誰にも思い出してもらえないまま、それでも先頭で戦っていた、エミリアです。黒髪の少年は、迷わず名前を呼びます。「大丈夫だよ、エミリアたん」
原作77話は、同じ場面をスバル側からなぞり、あの名乗りに繋がります。「俺の名前はナツキスバル。エミリアたんの、いちの騎士!」(六章77話)
注意したいのは、エミリアの名前はまだ戻っていないこと。ラムもベアトリスも、思い出せないまま。それでも本人は「ただのエミリアよ」と言い切り、この場に立っています。
アニメはここまで。原作77話は、まだ続きます。
ラムいわく、エミリアを見ていると頭がむず痒い。レムのときも、同じだった。奪われた側には、穴の感触だけが残る。この描き方は、この先も効いてきます。
スバルはコル・レオニスで仲間の位置を掴み、配置の立て直しに動き出します。ラムが日頃から抱えている負担を、黙って引き受けながら。
そして塔にはまだ、五つの障害が残っています。スバルの読みは、来るか来ないか「ごぶごぶ」。条件は、死に戻りが外に大きく漏れること。なかに潜んでいたルイが弾き出された今、条件は消えたはず。ただし、確信は持てません。このごぶごぶの不安が、終盤の緊張感になります。
まとめ
5話をまとめます。
回収されたのは、ラムの「雪解け」。1話で張られ、記憶の統合で成就しました。
反転したのは、記憶を失ったスバルの内側。そこには、ルイ・アルネブがいました。
新しく張られたのは、書の「既定路線」。記憶の回廊の支配者。そして、勝者のいないルイ同士の争いの行方です。
次回6話は、この続きからになります。残りは、五つの障害と、ごぶごぶのあの影。スバルの読みは、当たるのか。次回も、すぐ解説を出します。
原作:長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』(小説家になろう/MF文庫J・KADOKAWA)。 本文中の原作の引用は、考察・批評を目的とした引用です。